今村夏子「ある夜の思い出」

今村夏子「ある夜の思い出」(『たべるのがおそい』第5号、2018年4月)読む。
短編。
自身の経験を書いているのかと思えば(中学を卒業してから15年間無職でずっと文字とおり床にゴロゴロしていた、と読んで自身の経験か…と判断される人間というのもあれだが)、いつの間にか、「床をゴロゴロする」が猫あたりになった人間の話かな、とスライドして(人間の言語を理解できるが、人間との対話は成り立たない)、現代小説によく見られる「スリップストリーム」「ストレインジフィクション」系かと思えば、ふっと、語りの時間が飛んで、しっかりとした境界線が引けそうな時点まで運ばれる。

寓意性をどの程度読み取ればいいのか、先の文芸誌にほぼ同時に掲載された二つの短編は、アレゴリーとして読みたくなる雰囲気があったが、今回の短編は少なくとも枠構造の部分はそのまま素直に読んでおきたいようにも思える。このあたりの線引き、ないしは、参照の枠組みの設定(複数化させる)のうまさ。

 

文学ムック たべるのがおそい vol.5

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